Once more












「ごめんね、土浦君」


大きな地図を抱えながら苦笑を漏らす香穂子に、
梁太郎は大量のプリントを両手に抱えにっこりと笑みを浮かべる。


「ま、いいさ。放課後は練習に付き合ってもらうから、さ」


毎日放課後は一緒に練習してるじゃない…と思う香穂子だが、
この梁太郎の笑顔を見ると何も言えなくなってしまう。






香穂子はこの笑顔に弱い。

困っているといつもさりげなく助けてくれ、それも嫌味がない。

どうしたら、こんなイイヒトになれるのだろう…といつも考えてしまう。

そんな優しいところも、まっすぐなところも、香穂子は好きだったりする。






「あ、ここだね」


ガラガラと音を立てながらドアを開け、中に入る。


さすがに昼休みのこの時間に準備室に来る生徒などおらず、人気を感じない。


「よいっしょ…っと」


地図を置き、香穂子は大きく背伸びをしながら梁太郎を振り返った。


「土浦君、ホントにありがとね」


「構わないさ。あ、それより足元気をつけろよ」


「大丈夫だよ〜」


そういって足を踏み出した瞬間、
床に落ちていた古いカーテンで足を滑らせ、そのまま後ろに倒れこんだ。


「わ…っ」


「日野!」


さすがはスポーツマンの反射神経、というところか。


すんでの所で香穂子の身体は梁太郎の腕に抱き留められ、
どうにか後頭部強打は避けられた。


「あ、ありがとう…」


「だから気をつけろって…」






『…………』






二人の間に生まれる一瞬の沈黙。


顔と顔との距離があまりにも近すぎて、互いの頬が紅潮していく。


「えっと…」


不安定な体勢で急に離れるわけにもいかず、
どうしていいかわからずに香穂子は目を泳がせる。


「あー…その…」


香穂子の身体がより強く抱き寄せられ、耳元に吐息がかかる。






      キスして、いいか?






ダメ…などとは言える状況でもないが、
返事を紡ぐ前に、梁太郎の唇が香穂子の唇に寄せられた。


熱を感じるほどに近い、梁太郎の唇。


ドクン、ドクンと、鼓動を打つ。






その唇が触れ合おうとした瞬間。






「うお…っ」

「わ…っ」






ガタッ、ガタンッと響く音と埃を立て、二人はそのまま後ろに倒れこんだ。


「痛ってぇ…」


香穂子は腰に鈍い痛みを感じるものの、一番打っていそうな頭部に痛みは感じない。


香穂子を守るように、梁太郎の腕はその身体をしっかりと包み込んでいた。


「だ…大丈夫!?」


「悪い…バランス崩した…」


パチリ、と二人の視線が交じり合う。


互いの顔に埃がついていて、思わず同時に噴出してしまう。


「なんか…」


「ダサイな、俺たち…」


「ね?」






互いにクスクス笑い合い、そしてどちらからともなく唇が重なった。






何度も何度も、重なる唇。




それは、

甘く、

優しく、

とろけるようなキス        
















いちゃこらしすぎて昼飯を食い損ねたカップルがいたとかいないとか(笑)

てことで、なぜか土日書いてみました!
爽やかバカップルのお話が書きたかったんです〜。メチャ楽しいv
きっと土日はまた書くと思いますv













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